アーツセラピー研究所
はじめてのコラージュ療法
書評
各先生方からの書評
「はじめてのコラージュ療法」書評
ユング派分析家・常葉大学大学院
前田 正
本書は、日本のコラージュ療法の第一人者の1人である杉浦京子先生の集大成ともいうべき大著を、全ての心理臨床家が手に取りやすい形で世に出していただいた貴重な書籍です。共著者の金丸隆太先生の「おわりに」にも書かれてある通りです。内容は、初心者からベテランの臨床家まで、臨床心理学の大学院生・大学生から教授まで、基礎から応用・発展まで幅広く役に立ち、大変感動いたしました。
実践事例の章の最後に書かれている「コラージュ療法は年齢を問わずさまざまな分野で活用されていて、汎用性の高い技法です。作成すること自体が治療的で、治療者はそれを受け止める役割があります。(中略)導入に際しては、細心の注意が必要であることを念頭に置きながら、ぜひ臨床に活用してください」という部分に、クライエントさんを第1に大切にする臨床家・杉浦京子先生の根本姿勢がうかがわれます。この章に挙げられている、不登校小学1年生女児の母親面接、外出恐怖の女子大学生のコラージュ療法・同時製作法、不登校の子どもをもつ母親の集団内でのコラージュ療法、中学校スクールカウンセリングでの壁コラージュ、軽度アルツハイマー病の夫と介護者の妻による同時制作の事例は、どれも圧巻で素晴らしかったです。
コラージュ療法の研究の章では、先行研究の分類と課題、研究を始めるときの12の視点、が丁寧に述べられ、大変有益でした。また、研究課題の具体例を7つ挙げていただき、将来のコラージュ療法の臨床研究・基礎研究が発展するための道標を示して下さっています。
他の章のどの部分も有意義な示唆に満ちています。
著者が所属する大学院でも、多くの大学院生と共に本書を学び始めています。本書が心理臨床にたづさわる万人に読まれ、心理療法の発展に寄与することを期待するとともに、杉浦京子先生の益々の御発展・御多幸をお祈りしています。
『はじめてのコラージュ療法』書評
平成国際大学法学部教授
青木智子
『はじめてのコラージュ療法』は、冒頭の35枚のコラージュ作品から始まります。
鮮やかで印象的な作品群を前に、クライエントと治療者が共に眺め、語り合う様子が聞こえてくるかのようです。
第1章では、コラージュ療法を学ぶ者なら誰もが知る杉浦京子の『コラージュ療法―基礎的研究と実際』が、30年以上にわたる臨床経験を踏まえて改めて論じています。倫理上、未発表の臨床事例や失敗した取り組みについて学ぶ機会は減少していますが、本書では、杉浦主催の事例検討会でのさまざまな討論や最新の研究の試みにまで触れています。本章は、コラージュ療法の基礎理論・技法・適応と導入・危険性と安全性が網羅され、臨床における土台ともなっています。
第2章では、安全かつ豊かにコラージュ療法を実施するための知恵があちこちに散りばめられ、作品を「読む」のではなく「聴く」姿勢が強調されています。芸術療法・無意識・子どもの臨床など、複数の理論的枠組みが紹介されており、初学者でも「心理学の広さ」を知ることができるはずです。また、専門家にとっては現場を振り返り、理論と実践の接点を再確認することができるでしょう。私的なことですが、私自身の研究が参考文献に登場していたことは、個人的な驚きと喜びでもあり、この療法を通しての学術的な人との出会いやネットワークの広がりを改めて感じました。
第3章は、統計処理にも詳しく、エビデンスからコラージュをはじめとする芸術療法への介入を得意とする金丸隆太によって、コラージュ療法の研究について懇切丁寧な記述がされています。コラージュ療法研究のガイドラインとなっていますので、研究者に大いに役立つことでしょう。
第4章では、「コラージュ」療法といっても実践方法は多岐にわたり、台紙の大きさもハガキ大から模造紙と幅広く、対象者に応じて手法をアレンジできることが明確に論じられています。だからこそ、コラージュの解釈や理解には心理学のみならず美術や神話、医学などのさまざまな知見を広めるべきであることがわかります。
第5章では、より具体的な4つの臨床事例に取り組みます。たとえば、不登校の小学1年生女児の事例は、その治療過程を精神分析的視点から、「コラージュ作品に表れた彼女の不安や欲求が、次第に安心感の回復や自己肯定感の芽生えが暗示される」と解釈しています。彼女の心の内面の理解にはマーラーやエリクソンの知識も援用されます。
事例から前述された理論を実践的に学べますが、「作品の解釈に正解はない」「あくまでクライエントの声を大切にする」という姿勢が、この療法における奥深さと優しさを示しているように思います。
心理療法は、主に言語を用いて行われますが、クライエントの「言葉にできないもの」「意識できないもの」とどう向き合うか――本書はその問いに、一枚の画用紙、糊と雑誌の切片から、理論だけでなく、実践を通して治療的関係の構築、すなわち「心を感じる」ことの大切さを教えてくれます。コラージュ療法の初学者にも経験豊かな実践者にもお勧めできる良書であると思います。
「はじめてのコラージュ療法」書評
埼玉県立小児医療センター 保健発達部
森 秀都
著者の1人である杉浦は、コラージュ療法の黎明期から多くの著作を上梓してきたが、ここ10数年ほどは「星と波描画テスト」の著作や研究を中心としていた。また、もう1人の金丸は、大学院生時代から杉浦の大学研究室にて、コラージュ療法を含むアートセラピーの薫陶を受け、先述の「星と波描画テスト」を含む著書を杉浦と上梓している。いわば先達とその弟子という2人が著したのが、今回の「はじめてのコラージュ療法」である。評者は、最初この本を手にした時、干支が巡って次のサイクルに向かうイメージが浮かんだ。改めてスターティングポイントに戻り、これからコラージュ療法に取り組んでみようと考えられている21世紀の読者に向けて、様々な視点からコラージュ療法の魅力を伝える、意欲的な著書である。
本書は、「Iコラージュ療法とは」「IIコラージュ療法の基礎理論」「IIIコラージュ療法の研究」「IV実践方法と分類」「Vコラージュ療法の実践事例」という5つの章から構成されている。
「Iコラージュ療法とは」には、コラージュ療法の成り立ちや特徴などがまとめられているが、読み進める中で改めて気づかされたことが、コラージュ療法が成立するには、いくつかの条件が必要だったことである。カラー印刷された雑誌が大量に出版され、それがお手頃価格で入手できる「大量生産と既製品の時代になったからこそ生まれた技法である」と書かれており、まさしく20世紀の文化を背景として生み出された心理療法であると同時に、「上手く描けない人こそ、また年齢も問わず誰もがアーティストになれる」普遍性、大衆性を備えた心理療法が、コラージュ療法である、としている。
しかし、ただの「コラージュ」が「コラージュ療法」として成立するためには、「IIコラージュ療法の基礎理論」の章にコンパクトにまとめられているように、種々の心理学理論、例えばユングやフロイト、芸術心理学やイメージの心理学などに通じていることが必要である。
また、これまでのコラージュ療法の発展に寄与した研究は「IIIコラージュ療法の研究」の章にあり、この章は金丸が担当しているが、まるで大学院生への研究指導のような、これからのコラージュ療法の発展も見据えた、きめ細やかな研究への配慮について述べられているパートが印象的である。
「IV実践方法と分類」の章では、コラージュ療法の具体的な進め方が掲載されているが、この章を読んで、評者は「リミックス文化」というキーワードが想起された。「リミックス文化」とは、「既存の素材を組み合わせたり編集したりして新しい創造的な作品や製品を作成することにより、派生作品を許可および奨励する社会文化」である(WikiPedia「リミックス文化」より)。コラージュそのものが、既存の素材を組み合わせ編集する「リミックス」行為であり、コラージュの実践方法も、オーソドックスな「マガジン・ピクチャー・コラージュ法」と「コラージュ・ボックス法」を基点に、様々なバリエーションがあり、心理臨床家の置かれた立場によって「リミックス」が容認されている。ただ、その「リミックス」の限界点、すなわち「枠」は、前章の「基礎理論」にあり、本書の各所に述べられている「箱庭療法」との類似点もまたここにある。
そして、最後の「Vコラージュ療法の実践事例」では、様々なケースとともに、多くのコラージュ作品が掲載されており、コラージュの豊潤さの一端を感じることができる。
先にも述べたが、本書はコラージュ療法の初学者をターゲットにしているものの、本書だけではコラージュ療法の習得には覚束ない。本書以外に必要なことは、自ら手を動かし、コラージュを制作してみることに、評者もそうであるが、著者の2人も同意頂けるのではないかと思う。アーツセラピー研究所は、コラージュ体験をするためのプログラムも用意されているので、ご興味を持たれた向きは、是非ご参加頂くことをお薦めする。
「はじめてのコラージュ療法」書評
ERIカウンセリングルーム 神奈川大学大学院人間科学研究科非常勤講師 寺沢英理子
はじめての人も初めてでない人も、学ぶことが多いと思いました。
コラージュ療法の発展が日本独特であり、さらにコラージュ療法を発展させてこら
れた先人たちが、それぞれ異なる背景を持ち、異なる道でコラージュ療法に出会い、その後の発展に寄与したかということが分かりやすく書かれています。「すぐれた臨床家」の姿がそこに立ち現れるように感じられました。さらに、その発展の多様性を読み進めていくと、臨床場面がいかに豊かなインスピレーションを臨床家に与えているのかということを感ぜずにはいられません。
このようにコラージュ療法そのものに関しての重要な基礎内容がコンパクトに盛り
込まれていることは言うまでもなく、サイコセラピー全般に共通する視点の指摘随所に盛り込まれています。特に、コラージュ療法の危険性・安全性という大変重要なポイントは、複数回にわたって明確に書かれています。この辺りは、初心者にとっても安心して学びを続けられる構成になっていると、私個人としては非常に感銘を受けた点の一つです。なにより、臨床場面によって、あるいは対象によって柔軟に技法を微調整したり、時に大きな工夫をしたりという柔軟な使い方がなされてきたからこそ、この技法が豊かさを増し、大輪の花を咲かせたのでしょう。もちろん、クライエントのためになるようにコラージュ療法の基本をしっかりと習得することが前提であることは自明のことです。
これからも、この技法が多くの臨床家に開かれていき、多くの臨床家のインスピレ
ーションを刺激し、発展し続けることを想像しながら最後のページを閉じました。
星と波描画テスト
~幼児を中心として~
書評
2024年7月末に出版された「星と波描画テストー幼児を中心としてー」(川島書店)の新刊本の書評が届いております。先生方の書評を掲載いたします。どなたからも身に余る書評を頂きました。ありがとうございます。 この本が心理アセスメントの専門家に役立つことを願っています。また幼児のみならず 、成人や高齢者までのクライエントの生活の質の向上に役立つことと確信しています。 今後も他の先生方の書評が届き次第、掲載する予定です。
「アーツセラピー研究所 所長 杉浦京子」
今この描画法の求められる最高水準の研究成果が見事に構成されていますね。
先生と研究仲間の皆様の現場主義が一貫していて、個別性と文化固有性、そして通文化普遍性が統合されています。どのページを開いても無駄なくまた、なんとも味わい深いのは、星と波の着想の卓抜さ、深さでしょう。
今後バウムテストのレベルで普及し、研究も活発になることを期待します。
早速院生たちにも紹介してまいりたいと思います。
「立命館大学客員教授 神戸大学名誉教授 森岡正芳」
この度は「星と波描画テスト 幼児を中心として」の出版、誠におめでとうございます。星と波描画テスト(SWT:Sterne-Wellen-Test)はアヴェ=ラルマンにより創案され、日本において杉浦京子先生により発展した、描画療法・描画診断法です。本書が監修者の杉浦先生を含め多くの心理臨床家によって執筆されたことに深い意義を感じます。もとより描画法は、単なるテストではなく、クライエントとセラピスト(被検者と検査者)の良好な関係性の基に描画療法的に行われて始めて有効なものになると考えます。本書における、幼児のSWTの成熟度(M)尺度と困難度(D)尺度の解説ならびに、日本における事例研究と調査研究の部分については深い感銘を受けました。成熟度尺度として、課題理解、星の形、波の動き、空間配置、枠の認知、質的水準の6分類、困難度尺度として、弱さ、未統制の欲動、緊張、過剰補償による統制、環境不適応のサインの5分類があり、その判断のコツも事例を基に分かりやすく説明されています。筆者は、現在の日本における発達障害児への対応に、WISCその他の心理検査を機械的に行い診断を当てはめるという流れを身近に感じ、幼児の将来を見据えた発展と治療に繋ぐ検査所見報告が充分になされていないことに危惧を感じています。これに風穴を開け、幼児の成長可能性と治療論をも内包した方法としてSWTが寄与する大きな可能性への期待が、本書を読んで膨らみました。
星と波は象徴的にも深い意味を持っていると思います。我々は宇宙の中に居て宇宙と共に在る存在ですが、日中の光が当たり意識的態度が優勢の時にはそれを実感せず生きています。夜になり、星がまばたいた時、はじめて宇宙的存在である自分自身という真実に向き合うことができるといえます。星は、我々と宇宙を繋ぐ重要なものです。また、波は、海や河の上に姿を現す深い無意識のエネルギー・動きを感じさせる重要なものといえます。幼児は無意識的宇宙的存在から意識的存在に発達する途上の段階にあり、星と波に近い存在といえるのではないでしょうか。また、人生の途上において困難に遭遇し立ち止まった時にも、人間存在の根幹にある無意識的宇宙的存在である自分自身に立ち返ることで再起への転回に役立つように思われます。
本書は素晴らしい内容で、筆者が所属する大学院での来年度文献購読書籍に使わせていただく予定です。
執筆者ならびに本書の完成に尽力なさったSWT研究会の会員の皆様、アーツセラピー研究所の皆様の益々のご発展をお祈りしています。
「ユング派分析家 常葉大学大学院 前田 正」
『星と波描画テスト』を読了しました。退職以来、錬金術にのめり込み、集合的無意識の海を漂っているうちに、すっかり遠ざかっていた心理臨床の現場の一端に再び触れた思いで、興味深くかつ丁寧に読みました。「現場の一端に触れた」と書いたのは、読み進むうちに、今日の日本では発達障害が切実な問題になりつつあるということを思い出したことによります。僕は現場を知っているわけではなく、仄聞するところから想像するだけですが、これは現代日本の問題の焦点の一つだという気がしています。
近年の発達障害の増加はもっぱら環境の変化に由来するものであり、近代の本質に関わるように思えます。近代という「理念」(ヘーゲル的な理念=発展を通じて現実を形成してゆく中核的理念)は「進歩」をよしとします。絶えず「より良く」ならねばならず、その担い手としてのリベラリズムは啓蒙主義的・理性主義的な進歩へと向かいます。それは我々の生活圏を住みやすくしてくれるでしょうが、同時に少しずつ窮屈にもします。そして「正常」の範囲を狭めてゆくのです。(略)今はいろんなことが窮屈になっています。
昨今の発達障害の増加、その「社会現象化」の背後に「ユング的人類の心的変容過程」があります。つまり、近代の進展につれて「正常の範囲」が狭まってゆき、以前なら許容されていた行動が環境(個体を取り巻く共同体)によって排除され、環境との摩擦を生み出し、それが「二次障害」を引き起こし、その蓄積と固定化が「発達障害」を結果する——僕にはそのように思えます
SWTが幼児の発達障害の早期発見の強力なツールとなりうること、そして杉浦先生をはじめとする著者の皆さんが、膨大なデータに基づいてその標準化と活用のための研究を蓄積されてきたことに感銘を受けました。さまざまな分野の専門家の長期にわたる研究の成果が一冊にまとめられたこの著作は外交辞令抜きで今日の心理臨床実践に大きく貢献するものだと思います。
ここで必要な対策は、誰もが言うとおり、「診断」と「療育」——問題を「邪な人格」ではなく「障害」に帰属させて周囲に理解させること(「診断」)、そして環境との接触面の心理機能を訓練によって修正すること(療育)だろうと思います。
ここで改めて、SWTの価値が実感されます。施行が容易で、侵襲的なところがほとんどなく、採点についても十分に標準化されているので、実施のためのハードルも高くない。保育園・幼稚園レベルで、教育活動の一環として実施されれば多大の成果が期待されますね。
「前青森県立保健大学教授 入江良平」
ご本の出版、誠におめでとうございます。私にも一冊、お送りくださいまして、深く感謝いたします。内容の充実した価値ある研究書です。私が特に注目したのは第4章の、文化間の違いです。本テストをさらに海外の、多くの国々(ヨーロッパの各国、北米・南米、ロシア、アジア、アフリカなど)の人々(子どもたち)に適用し、比較研究されたら、と思います。
又、本書は幼児を中心に究められていますが、対象を学童、青年、成人、高齢者に広げ、生涯発達の、テストとしての妥当性を高める研究をつづけていかれたら、よいと思います。
いずれにせよ、本テストの将来性は無限に広がっていると、私は確信しました。
取り急ぎ、お祝いとお礼を申し上げます。益々、ご健康にご留意くださいますように。
「横浜市立大学 名誉教授 伊藤隆二」
この書籍の紹介は、2024/09/14の杉浦・金丸・小松の3名による「出版記念講座」から、本格的にスタートしました。著書は、2016-2023年の日本心理臨床学会での研究報告の集大成でもあり、熱心に継続している研究者仲間たち13名による著作(ダフネ・ヤローン氏の序文とSWTの歴史などの解説、ブルーノ・リネル氏によるウルスラ・アヴェー=ラルマンへの追悼文「星と波テストが日本にどのように伝わったか」を含む)を杉浦先生がとても分かりやすく編集・監修した力作です。
SWTの初心者から慣れ親しんだ研究者たちまで、是非お勧めしたい素晴らしい著作であると思います。
なお、年6回、SWT研究会をZoomで開催していることも付記しておきます。
「入江クリニック院長 日本芸術療法学会理事 入江 茂」
『星と波描画テスト―幼児を中心として―』を拝読して
「星と波」、なんと素敵なアイテムでしょう。空の遠くからやって来る光の波と湛えられた水に見られる波に私たちの心を投映するとは、なんとロマンティックな発想でしょう。羊水に包まれていたころにもさまざまな波動を感じていた私たちは、ずっと心の波立ちを体験しながら生きていると言っても良いでしょう。「星と波」という概念だけでも心がときめくものですが、それ以上に生命の深いところで通じる波としての共通性が含まれているのではないでしょうか。描画表現には概念から生命の奥深くの次元までを同時に表すことが可能なのだと思います。それ故に、多くの臨床家がさまざまな臨床の場で、描画の持つ大きな力と可能性を実感し活用しているのだと、私は思っています。子供の場合はなおさらで、言葉以上にさまざまなことを物語ってくれる描画が宝の山とも言えるでしょう。この度、本書を手にして、何か大きな仕事が成し遂げられたのだと直感し、ワクワクしました。しかし、その感動を言葉で表現する段になると、とたんに緊張が走り、その難しさに改めて困惑しました。それほど、ここに示された沢山の絵と筆者らの研究に向けられた思いからは、ものすごいパワーが伝わってきます。
本書を拝読し、日本の就学前児童の発達スクリーニングテストとして、星と波描画テスト(SWT)を世に提示した点が最大の功績であろうと思いました。筆者らは、ダフネ・ヤローンが設定した「発達成熟度(M)尺度」と「困難度(D)尺度」によってSWTによる就学前の適応を理解・推測する精度が上がったことを受けて、日本での標準化に多大なる精力を注いだのです。信頼性・妥当性の検討からM尺度とD尺度の採点方法を詳細に確認する第3章は圧巻と言えます。一部、第2章と3章に亘っていますが、他の検査との比較検討など、丁寧な研究を積み重ねており、子供たちの未来を託す手法への真摯な姿勢に臨床家たちの底力を見せられた思いがいたしました。
本テストが日本に1990年代半ばに紹介された時は、成人(学生)に対して人格診断として施行されてきたのですが、本書では、発達機能テストとして活用できる年齢の検討も行い、さらに就学前のスクリーニングに留まらず、子供たちを取り巻く大人たちに大切な手がかりを与え、それらは子供たちの将来に還元されるものであることが示されています。実は、M尺度とD尺度の採点方法を見ていくと、大変難しいというのが率直な感想でした。しかし、「困難度尺度のコツ」という節が設けられており、ヤローンとの直接のやり取りから得られた貴重な視点がふんだんに載せられており、ここを読み進めていく中で、私にもできるかもしれないという感覚が生まれてきました。読者の理解を促進していくこの件は、臨床家の実践においてとても助けになると実感しました。さらに続くケースを読み進めると、採点の揺らぎへの不安は軽減されていきます。このように本書を読んでの感動のさわりをお伝えしましたが、第5章には「星と波描画法テストの活用」として、幼児、幼児不適応児、児童、成人心身症、知的障害者への活用と豊富な臨床場面での活用例が盛り込まれています。描画表現に魅せられている臨床家もこれから魅せられるであろう臨床家も、本書に示された研究者の魂を引き継ぎ、さまざまな臨床場面での活用を実践し、臨床の知の財産の蓄積に寄与していこうではありませんか。
「ERIカウンセリングルーム 神奈川大学大学院人間科学研究科非常勤講師 寺沢英理子」
「星と波描画テスト 幼児を中心として」を拝読しました。といってもまだ「一読」したと申し上げたほうがよいと思います。非常に多くのご研究がまとめられた書籍ですから、また今後とも折に触れて読み直したいと思います。
その名の通り300名以上もの幼児のデータを分析された結果がまとめられており、その手法の発達の水準についての判定方法の詳細さからも、特にこの年齢の臨床に関わる先生方におかれましては、このテストをますます有効な手法として活用していく助けとなる研究の成果が豊富に述べられています。
一般に描画を用いるテストは短時間で実施でき、描画を挟んでのやり取りを通じた臨床的な介入にも大変役立つものですが、ともすると主観的な理解にとどまりやすいためもあってか、残念ながらその使用頻度に見合った研究が活発とは言い難いように思われます。したがいまして信頼性・妥当性研究を積み重ねていくことが必要なのは当然のことですが、描画表現をもとにするという性質からもそのような研究が大変難しい領域でもあるかと思われ、このような領域におかれまして、大規模な研究をここまで行われたことに大変感銘を受けます。評者も描画の研究に携わる者としてぜひ今後とも学ばせていただきたく思います。
「村上カウンセリングオフィス/イタリア・ワルテッグ協会日本支部長 村上 貢」