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星と波描画テスト
~​幼児を中心として~
書評

2024年7月末に出版された「星と波描画テストー幼児を中心としてー」(川島書店)の新刊本の書評が届いております。先生方の書評を掲載いたします。どなたからも身に余る書評を頂きました。ありがとうございます。 この本が心理アセスメントの専門家に役立つことを願っています。また幼児のみならず 、成人や高齢者までのクライエントの生活の質の向上に役立つことと確信しています。 今後も他の先生方の書評が届き次第、掲載する予定です。

「アーツセラピー研究所 所長  杉浦京子」

今この描画法の求められる最高水準の研究成果が見事に構成されていますね。

先生と研究仲間の皆様の現場主義が一貫していて、個別性と文化固有性、そして通文化普遍性が統合されています。どのページを開いても無駄なくまた、なんとも味わい深いのは、星と波の着想の卓抜さ、深さでしょう。

今後バウムテストのレベルで普及し、研究も活発になることを期待します。

早速院生たちにも紹介してまいりたいと思います。

 「立命館大学客員教授 神戸大学名誉教授 森岡正芳」

この度は「星と波描画テスト 幼児を中心として」の出版、誠におめでとうございます。星と波描画テスト(SWT:Sterne-Wellen-Test)はアヴェ=ラルマンにより創案され、日本において杉浦京子先生により発展した、描画療法・描画診断法です。本書が監修者の杉浦先生を含め多くの心理臨床家によって執筆されたことに深い意義を感じます。もとより描画法は、単なるテストではなく、クライエントとセラピスト(被検者と検査者)の良好な関係性の基に描画療法的に行われて始めて有効なものになると考えます。本書における、幼児のSWTの成熟度(M)尺度と困難度(D)尺度の解説ならびに、日本における事例研究と調査研究の部分については深い感銘を受けました。成熟度尺度として、課題理解、星の形、波の動き、空間配置、枠の認知、質的水準の6分類、困難度尺度として、弱さ、未統制の欲動、緊張、過剰補償による統制、環境不適応のサインの5分類があり、その判断のコツも事例を基に分かりやすく説明されています。筆者は、現在の日本における発達障害児への対応に、WISCその他の心理検査を機械的に行い診断を当てはめるという流れを身近に感じ、幼児の将来を見据えた発展と治療に繋ぐ検査所見報告が充分になされていないことに危惧を感じています。これに風穴を開け、幼児の成長可能性と治療論をも内包した方法としてSWTが寄与する大きな可能性への期待が、本書を読んで膨らみました。

 星と波は象徴的にも深い意味を持っていると思います。我々は宇宙の中に居て宇宙と共に在る存在ですが、日中の光が当たり意識的態度が優勢の時にはそれを実感せず生きています。夜になり、星がまばたいた時、はじめて宇宙的存在である自分自身という真実に向き合うことができるといえます。星は、我々と宇宙を繋ぐ重要なものです。また、波は、海や河の上に姿を現す深い無意識のエネルギー・動きを感じさせる重要なものといえます。幼児は無意識的宇宙的存在から意識的存在に発達する途上の段階にあり、星と波に近い存在といえるのではないでしょうか。また、人生の途上において困難に遭遇し立ち止まった時にも、人間存在の根幹にある無意識的宇宙的存在である自分自身に立ち返ることで再起への転回に役立つように思われます。

 本書は素晴らしい内容で、筆者が所属する大学院での来年度文献購読書籍に使わせていただく予定です。

 執筆者ならびに本書の完成に尽力なさったSWT研究会の会員の皆様、アーツセラピー研究所の皆様の益々のご発展をお祈りしています。

「ユング派分析家 常葉大学大学院 前田 正

『星と波描画テスト』を読了しました。退職以来、錬金術にのめり込み、集合的無意識の海を漂っているうちに、すっかり遠ざかっていた心理臨床の現場の一端に再び触れた思いで、興味深くかつ丁寧に読みました。「現場の一端に触れた」と書いたのは、読み進むうちに、今日の日本では発達障害が切実な問題になりつつあるということを思い出したことによります。僕は現場を知っているわけではなく、仄聞するところから想像するだけですが、これは現代日本の問題の焦点の一つだという気がしています。

近年の発達障害の増加はもっぱら環境の変化に由来するものであり、近代の本質に関わるように思えます。近代という「理念」(ヘーゲル的な理念=発展を通じて現実を形成してゆく中核的理念)は「進歩」をよしとします。絶えず「より良く」ならねばならず、その担い手としてのリベラリズムは啓蒙主義的・理性主義的な進歩へと向かいます。それは我々の生活圏を住みやすくしてくれるでしょうが、同時に少しずつ窮屈にもします。そして「正常」の範囲を狭めてゆくのです。(略)今はいろんなことが窮屈になっています。

昨今の発達障害の増加、その「社会現象化」の背後に「ユング的人類の心的変容過程」があります。つまり、近代の進展につれて「正常の範囲」が狭まってゆき、以前なら許容されていた行動が環境(個体を取り巻く共同体)によって排除され、環境との摩擦を生み出し、それが「二次障害」を引き起こし、その蓄積と固定化が「発達障害」を結果する——僕にはそのように思えます

SWTが幼児の発達障害の早期発見の強力なツールとなりうること、そして杉浦先生をはじめとする著者の皆さんが、膨大なデータに基づいてその標準化と活用のための研究を蓄積されてきたことに感銘を受けました。さまざまな分野の専門家の長期にわたる研究の成果が一冊にまとめられたこの著作は外交辞令抜きで今日の心理臨床実践に大きく貢献するものだと思います。

ここで必要な対策は、誰もが言うとおり、「診断」と「療育」——問題を「邪な人格」ではなく「障害」に帰属させて周囲に理解させること(「診断」)、そして環境との接触面の心理機能を訓練によって修正すること(療育)だろうと思います。

ここで改めて、SWTの価値が実感されます。施行が容易で、侵襲的なところがほとんどなく、採点についても十分に標準化されているので、実施のためのハードルも高くない。保育園・幼稚園レベルで、教育活動の一環として実施されれば多大の成果が期待されますね。

​「前青森県立保健大学教授 入江良平」

​ご本の出版、誠におめでとうございます。私にも一冊、お送りくださいまして、深く感謝いたします。内容の充実した価値ある研究書です。私が特に注目したのは第4章の、文化間の違いです。本テストをさらに海外の、多くの国々(ヨーロッパの各国、北米・南米、ロシア、アジア、アフリカなど)の人々(子どもたち)に適用し、比較研究されたら、と思います。

又、本書は幼児を中心に究められていますが、対象を学童、青年、成人、高齢者に広げ、生涯発達の、テストとしての妥当性を高める研究をつづけていかれたら、よいと思います。

いずれにせよ、本テストの将来性は無限に広がっていると、私は確信しました。

取り急ぎ、お祝いとお礼を申し上げます。益々、ご健康にご留意くださいますように。

​「横浜市立大学 名誉教授 伊藤隆二」

この書籍の紹介は、2024/09/14の杉浦・金丸・小松の3名による「出版記念講座」から、本格的にスタートしました。著書は、2016-2023年の日本心理臨床学会での研究報告の集大成でもあり、熱心に継続している研究者仲間たち13名による著作(ダフネ・ヤローン氏の序文とSWTの歴史などの解説、ブルーノ・リネル氏によるウルスラ・アヴェー=ラルマンへの追悼文「星と波テストが日本にどのように伝わったか」を含む)を杉浦先生がとても分かりやすく編集・監修した力作です。

SWTの初心者から慣れ親しんだ研究者たちまで、是非お勧めしたい素晴らしい著作であると思います。

なお、年6回、SWT研究会をZoomで開催していることも付記しておきます。

「入江クリニック院長 日本芸術療法学会理事 入江 茂」

『星と波描画テスト―幼児を中心として―』を拝読して

 「星と波」、なんと素敵なアイテムでしょう。空の遠くからやって来る光の波と湛えられた水に見られる波に私たちの心を投映するとは、なんとロマンティックな発想でしょう。羊水に包まれていたころにもさまざまな波動を感じていた私たちは、ずっと心の波立ちを体験しながら生きていると言っても良いでしょう。「星と波」という概念だけでも心がときめくものですが、それ以上に生命の深いところで通じる波としての共通性が含まれているのではないでしょうか。描画表現には概念から生命の奥深くの次元までを同時に表すことが可能なのだと思います。それ故に、多くの臨床家がさまざまな臨床の場で、描画の持つ大きな力と可能性を実感し活用しているのだと、私は思っています。子供の場合はなおさらで、言葉以上にさまざまなことを物語ってくれる描画が宝の山とも言えるでしょう。この度、本書を手にして、何か大きな仕事が成し遂げられたのだと直感し、ワクワクしました。しかし、その感動を言葉で表現する段になると、とたんに緊張が走り、その難しさに改めて困惑しました。それほど、ここに示された沢山の絵と筆者らの研究に向けられた思いからは、ものすごいパワーが伝わってきます。

 本書を拝読し、日本の就学前児童の発達スクリーニングテストとして、星と波描画テスト(SWT)を世に提示した点が最大の功績であろうと思いました。筆者らは、ダフネ・ヤローンが設定した「発達成熟度(M)尺度」と「困難度(D)尺度」によってSWTによる就学前の適応を理解・推測する精度が上がったことを受けて、日本での標準化に多大なる精力を注いだのです。信頼性・妥当性の検討からM尺度とD尺度の採点方法を詳細に確認する第3章は圧巻と言えます。一部、第2章と3章に亘っていますが、他の検査との比較検討など、丁寧な研究を積み重ねており、子供たちの未来を託す手法への真摯な姿勢に臨床家たちの底力を見せられた思いがいたしました。

 本テストが日本に1990年代半ばに紹介された時は、成人(学生)に対して人格診断として施行されてきたのですが、本書では、発達機能テストとして活用できる年齢の検討も行い、さらに就学前のスクリーニングに留まらず、子供たちを取り巻く大人たちに大切な手がかりを与え、それらは子供たちの将来に還元されるものであることが示されています。実は、M尺度とD尺度の採点方法を見ていくと、大変難しいというのが率直な感想でした。しかし、「困難度尺度のコツ」という節が設けられており、ヤローンとの直接のやり取りから得られた貴重な視点がふんだんに載せられており、ここを読み進めていく中で、私にもできるかもしれないという感覚が生まれてきました。読者の理解を促進していくこの件は、臨床家の実践においてとても助けになると実感しました。さらに続くケースを読み進めると、採点の揺らぎへの不安は軽減されていきます。このように本書を読んでの感動のさわりをお伝えしましたが、第5章には「星と波描画法テストの活用」として、幼児、幼児不適応児、児童、成人心身症、知的障害者への活用と豊富な臨床場面での活用例が盛り込まれています。描画表現に魅せられている臨床家もこれから魅せられるであろう臨床家も、本書に示された研究者の魂を引き継ぎ、さまざまな臨床場面での活用を実践し、臨床の知の財産の蓄積に寄与していこうではありませんか。

「ERIカウンセリングルーム  神奈川大学大学院人間科学研究科非常勤講師  寺沢英理子」

「星と波描画テスト 幼児を中心として」を拝読しました。といってもまだ「一読」したと申し上げたほうがよいと思います。非常に多くのご研究がまとめられた書籍ですから、また今後とも折に触れて読み直したいと思います。

その名の通り300名以上もの幼児のデータを分析された結果がまとめられており、その手法の発達の水準についての判定方法の詳細さからも、特にこの年齢の臨床に関わる先生方におかれましては、このテストをますます有効な手法として活用していく助けとなる研究の成果が豊富に述べられています。

一般に描画を用いるテストは短時間で実施でき、描画を挟んでのやり取りを通じた臨床的な介入にも大変役立つものですが、ともすると主観的な理解にとどまりやすいためもあってか、残念ながらその使用頻度に見合った研究が活発とは言い難いように思われます。したがいまして信頼性・妥当性研究を積み重ねていくことが必要なのは当然のことですが、描画表現をもとにするという性質からもそのような研究が大変難しい領域でもあるかと思われ、このような領域におかれまして、大規模な研究をここまで行われたことに大変感銘を受けます。評者も描画の研究に携わる者としてぜひ今後とも学ばせていただきたく思います。

「村上カウンセリングオフィス/イタリア・ワルテッグ協会日本支部長 村上 貢」

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